口腔衛生の全身性疾患及び生命予後に及ぼす影響
佐々木英忠、荒井啓行、矢内勝 (東北大学医学部老年・呼吸器内科)
緒言
厚生省の平成10年の人口動態統計によれば、日本人の死因としての肺炎は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患についで第4位であり、その中では65歳以上の高齢者が94.4%を占める。
高齢者肺炎は口腔内雑菌の不顕性誤嚥による細菌性肺炎と同意であると言ってもよく、その予防として高齢者の口腔衛生の向上は非常に重要なファクターである。
高齢者肺炎の危険因子としては他に認知機能の低下、ADL低下などがあげられ、また不顕性誤嚥を誘因する高齢者の嚥下障害は、脳血管障害などにより嚥下反射や咳反射を司る神経伝達物質サブスタンスPの合成が低下することにより起こる。
この研究ではブラッシングによる口腔ケアがこれらの高齢者肺炎の危険因子に影響を与え、高齢者肺炎罹患予防に働きかけることを明らかにする。activity of daily living日常生活動作
歯科医学の進歩と歴史
わが国への歯科医学の渡来経路は
■中国を中継し漢学によるもの
■外国人、殊にポルトガル人、オランダ人によっていわゆる南蛮医学あるいは蘭医学の一科として渡来したもの
■渡来した外国人歯科医師によって直接わが国に紹介されたもの
■外国に渡り日本人が歯科医術を修得し、帰国後わが国に紹介したもの
の4つであるといわれる。
とくに、外国人ではシーボルトのように外科に長じたものは外科的歯科処置したといわれる。
これらの洋方医術が近代歯科医学の嚆矢でもある。外国人歯科医師では、W.C. イーストレーキが1860年(万延元年)横浜に来たのを最初とする。口腔疾患とマイクロバイオーム
ー口腔の健康に関連するマイクロバイオームの個人差ー
山下喜久(写真) 竹下 徹
Yoshihisa Yamashita and Toru Takeshita
九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座口腔予防医学分野齲蝕(虫歯)や歯周疾患の原因菌の究明には過去100年以上にわたって莫大な時間と労力が費やされてきた。
その多大な努力により虫歯菌として広く知られているミュータンス連鎖球菌をはじめとしたいくつかの細菌種が、齲蝕や歯周病の原因菌の有力な候補として注目されているが、いずれの疾患も病因論の全貌解明にはいまだに至っていない。
その最大の障壁は700種を超えて口腔に生息する常在菌の存在である。
健康な口腔が無菌であれば、たとえ病原細菌の培養が困難であっても培養法や検出法の技術革新によりそれを克服できるが,健康な口腔であっても相当数の常在細菌が生息しており、これらのなかから病原細菌を特定することはそれほど容易ではない。
さらに、通常は人畜無害にみえる常在細菌であっても、その構成比率のバランスが崩壊することで病原性を発揮する可能性も示唆されており、口腔疾患を勧善懲悪的な概念でとらえることは難しい。
本稿では、近年の科学技術の進展によって可能となった網羅的口腔マイクバイオーム解析の結果に基づいて、口腔マイクロバイオームと口腔疾患との関連性について概説した。口腔マイクロバイオーム解析の歯科医学における臨床的意義
山下喜久 竹下 徹
う蝕や歯周病などの口腔疾患は口腔細菌が原因となって発症することは古くから知られている事実であるにもかかわらず、歯科臨床では細菌学検査を治療や予防に生かし切れていない。
これは口腔疾患が複雑な細菌構成からなる口腔マイクロバイオームを背景とした特異な病因論に基づくためであると考えられる。
本稿では、マイクロバイオーム解析手法の近年の急速な発展がかつては困難を極めると思われていた口腔マイクロバイオームの個体差の解析を可能にしてきたことを受け、口腔感染症の新たな病因論の確立に迫る口腔マイクロバイオーム解析がこれからの歯科医学において果たし得る臨床的意義を紹介する。我が国の歯学教育の改革
ー歯学から口腔医学へー
田中健藏
作家の遠藤周作氏が1987年から95年にかけて、産經新聞に連載した「花時計」の中に、「なぜ歯学だけが別扱いなの?」という一文がある。
彼は、耳鼻科や眼科は医学部に属しているのに歯科だけがなぜ別扱いにされるのかという疑問を投げかけている。この素朴な疑問は、一般の人や医療関係者の中にも広く存在している。
更に遠藤氏は、歯科医学は医学全般と元々一体であるべきものであり、最終的には、医学全般の一専門分野として「口腔医学」として位置づける事が、社会のニーズに対応し、国民の健康増進に一層寄与する事になると主張している。学校法人福岡歯科学園の理事長田中健藏先生は、医学・歯学教育体制の再考を訴え続けている。
すなわち、日本では様々な社会や歴史の流れで、二元的な発展をしてきた医学と歯学ではあるが、高齢社会、口腔と全身の密接な関連など新たな社会の流れにあって、歯科医学は今一度原点に立ち返り、口腔医学として医学的基盤に立った学問体系を確立し、医学との関係を一元的に整理する必要があるとして、福岡歯科大学の機構改革に着手しているのみならず、学会、行政に対して積極的にアプローチしている。歯科医療の特異性(医歯一・二元論)の歴史と現在
「口腔医学」の創設・育成プロジェクトに寄せて
宮城県歯科医師会(宮城・仙台口腔保健センター) 杉本是孝
要旨:医歯一・二元論の論争は明治時代以来続いており、現在、文部科学省の助成金を得て推進されている「口腔医学の創設・育成プログラム」に焦点を合わせて問題点を整理した。榊原悠紀田郎は日本歯科医史学会 第138回例会に「医歯一・二元論の軌跡」と題して私的メモを配布した。今回、その内容を確認し、口腔外科関連の事項を追加して年表を再編成した。
要約すると、
- 明治時代以前;日本の歯科医業は、隣国、唐の影響力が強く、耳・目・口・歯の領域を行う口中医のほか、多くの呼び名(職種)があった。また歯科医学の父と言われているビエル・フォシャールは外科医で、歯科学を外科学より独立させ、後世に影響を及ぼした。一方、米国で最初の歯科医学校(ボルチモア)では、保存(充填)学と機械学の2科目のみで、技術(職人)教育であった。
- 明治時代;明治の初め、東校(現;東大医学部)が設立されるが、ドイツ医学が採用された。その頃ベルリン大学には歯科学教室がなかったため、東校にも設立されなかったことが、国家医療(医学)政策から遅れた要因と思われる。
- 医師法・歯科医師法制定(明治39年)以後;1906年医師法制定の頃、従来の歯科営業者を排除するため、鑑札制度を残して、歯科医師法が同時に制定された。その後、歯学(歯科医療)は独自の発展を遂げた反面、医科と歯科との境界領域における論争・紛争が見られた。一方、近年は時代背景から、医歯連携が行われ、医・歯一元論が必然的に論議されるようになったが、まずは歯科界の意思統一が前提の課題であると思われる。
IgA 腎症と口呼吸
IgA 腎症根治治療ネットワーク代表
堀田修クリニック 院長 堀田 修現在、我が国には約 30 万人の慢性腎臓病患者が末期腎不全により透析医療を受けている。 透析医療が必要となる二大原因疾患は糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎で、慢性糸球体腎炎 の約半数が IgA 腎症である。IgA 腎症は腎臓の血液濾過装置である糸球体のメサンギウム に IgA が沈着することを特徴とし、臨床的には糸球体毛細血管の破綻により血尿が認められる。
IgA 腎症が肉眼的血尿で発症することは稀で、血尿の程度はほとんどの場合は顕微鏡的血尿で、患者の 70%は検診で発見される。
IgA 腎症は、以前は不治の腎臓病であったが、現 在では早期の段階であれば扁桃摘出・ステロイドパルス併用療法(扁摘パルス)により根 治しうる疾患であることが明らかになっている。
SOMAによるWholistic Dentistry
Dr. J. Da Cruz
現在キャンベラで開業しているジョセフ・ダ・クルズ博士は、恒志会主催のフォーラム「ジョン・ダイアモンド博士のホリスティック・デンティストリー」の時に一緒に来日し、講演、実習をしていただいた先生です。
彼は非侵襲性の歯科治療を行っており、すなわち、Splint Orthodontic Myofunctional Appliance(SOMA)を用い、不正咬合に関連のある痛みやTMD、呼吸障害の治療を行っています。SOMAと統合した、これらの治療法は、ジョン・ダイアモンド博士(http://www.DrJohnDiamond.com)と協力して展開されています。
村上 徹の分室
恒志会では、口腔内の疾患が全身に及ぼす影響を強く訴えるために、これらに関する書籍の翻訳出版を行ってきました。
その中で、『全身歯科』にはフッ素の問題点に関する記述があり、関連として FLUORIDEALERT.ORGからの資料も掲載しておりますが、国内において、村上先生は、フッ素に関する論文・著述を多数上梓しています。
また、「日本フッ素毒警告ネットワーク」を立ち上げています。同時に、恒志会では、医科と歯科の教育的・組織的統合をめざす口腔医学の創設を提唱しています。
村上 徹先生の著述から
今日まで、専ら私の生活を支えているのは、私の診療を受けにくる患者さんから受けとる診療報酬ただ一つである。
私は患者さんからは大きな恩恵を受けている。
したがって、私としては、何としてでも、患者さんには、そのお返しをしなければならない。
そのためには自分の健康を厳しく律して体力を保つと同時に、全力をあげて患者さんにつくす。
これが私の人生の決定的な基盤である。歯科大学がなぜ医科と分離した形で作られたのか、医科歯科大が出来た経緯などを知ることが出来ます。
フッ化物に関する10の事実
フッ素による虫歯予防は、かつてWHOが世界に発信した指針でもあり、水道水にフッ素を添加する国が増加していた。しかし、その後の疫学調査で、水道水への添加は様々な弊害をもたらし、虫歯予防においてさえ有効とは言えないという認識が広まり、水道水添加を実施する国は減少している。
かかりつけ歯科医を持つ人ほど寿命が延びる
都市部に住む在宅高齢者の長寿(生存)におけるかかりつけ歯科医の効果
星 旦二 先生 首都大学東京教授
Abstract
目的
最近のレポートによれば、口腔衛生は生命を脅かす全身の病気の予防に効果的であり、かかりつけ歯科医による歯科医療のサポートと管理の重要性を示している。この論文の目的は、かかりつけ歯科医の存在と生存(長寿)の関係を明らかにするものである。方法
自己管理質問調査は、日本のある都市に居住する16,462 人の在宅高齢者に郵送され、問題の特性やかかりつけ歯科医の有無や長寿を決定する潜在的要素などを観察した。最初の調査は2001年に実施され、次の調査は2007年(6年後)生存が確認された対象において実施された。
2001年の調査では、カイ二乗検定とケンドールのタウを用いて、長寿の要素とかかりつけ歯科医の有無、性別を分析した。6年後の生存を分析するために、カプラン・マイヤー生存率曲線が求められ、生存を決定する要素はCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析によってわかりやすく立証された。口腔機能を発揮させる機序とは
Considerations for developmental mechanism of oral function
片山は、論文「噛む力をつけよう」の中で、顎の発育がよく、歯は丈夫で歯並びの美しい、そして濃厚な味付けを好まない、何でもよく噛んで食べる子どもは、離乳期から僅か2年そこそこの母親の努力で仕上げることができるということをよく知ってほしいと言っている。
そして、「口呼吸と鼻呼吸」の記事では、全身疾患との関わりから鼻呼吸の大切さを掲載させて頂いた。
また日本では、昔から「三つ子の魂」といって、三歳までの育児・環境の重要性を謳っている。標題の論文は、日常生活の自立に必要な口腔諸機能を新生児・乳幼児が如何に学習・習得していくのかを明らかにしたものである。
神奈川県 げんかい歯科医院
元開冨士雄オーラルヘルスと全身の健康
2003年に、WHO、FDI、IADRが共同作業として、「オーラルヘルスは、全身の健康に結合されたヘルスプロモーションの根幹を為すものである」との視点に立って、2020年までの口腔保健の国際目標(Global Goals for Oral Health 2020)を提示した。
そして「口腔に出現する全身疾患の個人および社会に及ぼす影響を最小限にし、これらの兆候を全身疾患の早期診断、予防に効果的に利用する。」としたゴールも掲げている。私たちも、歯科医療の諸問題は、口腔内だけに囚われていては根本的な解決にはならず、まして全身の健康の確立に積極的に寄与する事は出来ないと考えてきました。
そしてまた、歯科医学・歯科医療を「口腔と全身」という大きな視野で探求するためには、現在の教育制度、医療制度をも再考する必要があると考えています。2011 改訂版
一部のみご紹介します。